サッカーの試合では全力疾走が繰り返し行なわれる。いわゆる無酸素運動の繰り返しである。今回は心拍数と無酸素運動(3サイクルトレーニングの具体的内容、注1)の回復力の関係、さらにその回復力を高めるトレーニング法について述べることにしよう。
サッカーはダッシュして止まるなど、完結した運動の繰り返しによるスポーツだ。だがその連続性と、90分以上の試合時間から、有酸素能力(3サイクルトレーニングの具体的内容、注1)(一般的にグラウンド上では持久力やスタミナと言われているもの)も非常に重要となってくる。
ベースとしての有酸素能力が高ければサッカーのパフォーマンスは上がる。疲労が少なければプレーに余裕ができ、脳の働きも良い状態を維持できる。頭がフレッシュで精神状態も良好であれぱ、テクニックもいきるし、イマジネーションもわくというものだ。もちろんダッシュなどの無酸素運動の回復のスピードも高まり、乳酸等の疲労物質(3サイクルトレーニングの具体的内容、注2)の除去能力も高まる。特に競技レベルでは、サッカーという運動の特徴にあった有酸素能力がきわめて重要になってくる。
これまでもこの連載のなかで、たびたび心拍数について触れてきた。今回はこの大切な有酸素運動の指標について、整理しながら少し詳しく述べていきたい。
あなたがどの程度激しく、あるいは楽に運動しているか、エネルギーをどれほどのスピードで消費しているか。心拍数という数値には実に多くの要素が反映されている。この心拍数をモニターすれぱ自分の正確なコンディションを知り、目標に合ったトレーニングを計画することができる。
最近では正確な心拍数が測定できるハートレイトモニターが、個人でも手に入る価格で売り出されている。この種の機器を使用すれば、より効果的なトレーニングを実施し、目標を違成することができるだろう。では数値としての心拍数と運動強度の間にはどのような関係があるのか。前提として知っておいてほしいのは、自分の<安静時心拍数><最大心拍数>というふたつの数値と、ひとつの数式だ。
<安静時心拍数>
測定は朝目覚めてすぐ、まだ起き上がらないうちに行うのが最良だ。簡単なのは、左手の人差し指と中指を右手首の内側、親指のつけねから2cmほど下のところにあてるという方法だ。時計を見ながら、これで60秒間の脈を測る。1週間にわたって毎朝測定し、もっとも低い値を安静時心拍数とする。この安静時心拍数は、フィットネス・レベルが上がるにつれて低くなっていく。
ハートレイトモニターにメモリ機能がついている場合には、眠っている問に正確な安静時心拍数を測定することができる。
<最大心拍数>
近似値は、次のような計算で簡単に得られる。
男性 220一年齢
女性 226一年齢
スポーツをするのが初めての人や長い中断の後に再開した人、あるいは心疾患の既往歴がある人などはこの公式で事足りる。ただしこれはあくまで平壊直なので、競技者はもちろん、長い間良好なコンディションを保ってきた人や、高齢者にとってあまり正確なものとは言えない。
あらためてこの数値を得るにはテストを行う。。テストの際には、同じ程度の能力を備えた人と一緒に行うのがいいだろう。テストの眼目は力を100%出し切ることにあるので、お互いに刺激して意欲をかきたてる必要があるのだ。
テストは軽いトレーニングの日か。オフの日の翌日に行う。10分か15分のウォーミングアップの後、長い急な登り坂を、5分間レースのような気持ちで思いきり駆け上がる。特に最後の30秒は持てる力のすべてを出し切るようにする。
この最後のスプリントの間の心拍数の最高値が最大心拍数となる。ハートレイトモニターがあればその数値はモニターに表れるが、ない場合は走り終わった直後に計測することになる。
カルボネン方程式
ある運動をするとき、どこまで心拍数を上げたらいいのか。その目安となる<目標心拍数>を算出するのがこのカルボネン方程式だ。方程式という言葉に恐れを感じる選手も多いに違いないが、慣れれば簡単で役に立つ数式である。
この<目標心拍数>の算出には、ただ最大心拍数に運動強度のパーセンテージを掛けただけ、というのもある。ただしこの方法は、「安静特心拍数は人によって異なる」という事実を考慮に入れていない。このことに気が付いた生理学者カルボネンは、次のような数式を考案した。
目標心拍数=(最大心拍数−安静時心拍数)×運動強度十安静時心拍数
最大心拍数が毎分200拍、安静時拍数が毎分50拍の人が、運動強度50%の運動をしたときの目標心拍数は。
(200−50)×(50%)+50=125
毎分125拍、ということになる。
この数式のもうひとつの要素である運動強度については次のように考えてもらいたい。
注1:運動強度
(A)50〜60% (非常にイージーなトレーニング)
フィットネス・レベルをあげることのできるトレーニングとしてはもっとも楽なもの。大部分の人にとっては軽く感じられるペースで、息が切れるという感じもない。強度が低いと、身体は筋肉を働かせるためのエネルギーとしては脂肪を選択する。そこでこのぺースのトレニングは次のような人にメリットがある。
a 初心考、または長いブランクの後に運動を再開する人
b 回複をはかりたい人
c 減量したい人
(B)60〜70%(エアロビック・コンディショニング)
この強度でもまだ軽いと感じる人が多いだろうが、このゾーンの運動には次のような利点がある。
a 心臓の血液供給能力を高める
b 筋肉内の小血管を増やす
c 酸素代謝をつかさどる筋肉内酵素を増やす
d 筋肉組織、腱、靱帯、骨を強化する
e 身体をトレーニングに慣らす
f 体重管理を助ける
g 持久力を向上させる
(C)70〜80%(定常状態)
我々が長時間維持てきる最高のぺ一スと言うことがてきる。初心者にとってはきつすぎると感じられる反面、運動に慣れている人は、すべてのトレーニングをこのぺースで行ってしまうというミスを犯しがちだ。利点は多いが特に次のような効果がある。
a 身体をより速いぺ一スに慣らす
b 持久力を向上させる
c 乳酸の産出を起こさずに、維持できるスビードが上がる
(D) 80〜90% (無酸素性閾値・・・AT)(ハード)
トレーニング強度が低いときは、エネルギーは、酸素が存在するなかで脂肪やグルコースを燃焼させることで供給されていく。ところがトレーニング強度が高くなると、心臓と肺が需要を満たすだけの酸素を供給できなくなっていく。すると身体は、酸素を必要としない短時間の化学反応てグルコースを燃焼させ、埋め合わせるようになる。
こうして生まれるアネロビック(無酸素)エネルギーの難点は、乳酸などの老廃物が急速に産出される前の数秒間しか、良い状態が続かないところにある。アスリートなら、60秒以上のスプリントに耐えられなくなった覚えがあるはずだ。
我々が「アネロビック状態」になり、乳酸が産出され始める運動の強度をアネロビック閾値(無酸素性作業閾値)という。この閾値をわずかに下まわる心拍数で、短時間(3〜5分)のトレー二ングを行うのが有効だ。
このようなハードなトレーニングは、数ヶ月にわたるトレーニングですでに体力に自信がある場合や、競技レベルて試合に出たい場合、あるいは現代サッカー特有の戦術にトライする場合などに行う。特にサッカーで必要な、ダッシュの繰り返しからの回復力を養うことがてきる。この能力は現代のサッカーでよいパフォーマンスを引さ出すためには基本的なものといえよう。
ただしこの基本的な能力のさらに前提として、それ以前のトレーニング強度て養われる有酸素能力が十分に高められていなければならない。またこうしたトレーニングは、試合からもっとも遠い曜日に、週1回の割合で行い、しかもフィットネス・レベルが妥当なときに限った方がいいだろう。さもなければただのオーバートレー二ングになってしまう。
(E) 90〜100% (最高にハードなトレーニング)
このレベルのトレーニングは競技レベルの選手に限られる。ここでの心拍数は、ゴール前での攻防や、ドリブル突破など、試合を左右する重要な運動時の心拍数である。具体的なトレーニングとしては短距離のダッシュやターンダッシュなどの、短く激しい運動をさす。
実際のトレー二ングは、AからEまでのレベルの運動を組み合わせ、プログラムしていかなければならない。